ゲーム実況とアニメ動画をYouTubeにて無断配信していた男性が、著作権法違反の疑いで逮捕されました。ゲーム実況の配信者が著作権法違反の疑いで逮捕されるのは全国初で、ネット上では驚きの声が相次いでいます。
YouTubeにてゲーム実況動画を投稿している人は多く、他の配信者にとってもヒヤッとする事件だったのではないでしょうか。
ただ、ゲーム映像に関する全ての動画が著作権侵害になり、摘発されるわけではありません。
そこで、男性配信者が逮捕された理由や動画投稿時に守るべきゲームメーカーのガイドラインについて調査しました。
また、ゲーム実況・配信による著作権法違反の摘発に関わった中島博之弁護士の見解や、ゲーム実況を始める際に注意すべきことを紹介し、若年層を中心に支持を集める切り抜き動画でも過去に逮捕事例がありますので、切り抜きが違法となる可能性についても解説していきます。
ゲーム実況の無断配信者が著作権法違反の疑いで全国初逮捕!

2023年5月17日、YouTube上にゲームのプレイ動画やアニメ映像を無断で投稿したとして、自称YouTuberの男性が著作権法違反の疑いで逮捕されました。
男性は、2022年に「STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん」のガイドラインで認められていない内容のプレイ動画約1時間分(エンディングを含む)をYouTubeに投稿し、広告収入を得ていました。
それだけでなく、無断で編集した人気アニメ動画も投稿しており、悪質な事例として逮捕されています。
ゲーム実況・配信に関する全国初の逮捕者が出たことで、後を絶たないネタバレ動画の投稿やガイドラインに違反したゲーム実況・配信が違法であると改めて明確になりました。
前例が出来たことによってメーカー側も刑事告発という選択が取りやすくなり、ガイドラインを遵守することの重要性が高まったと考えられます。
全てのゲーム実況が著作権侵害にあたるのか?

今回の逮捕を受けて、全てのゲーム実況が著作権侵害にあたるのでは?と思った方もいるかもしれません。
しかし、結論から言うと全てのゲーム実況が違法なわけではありません。
まず、著作権法とはどんな法律なのかについて解説していきます。
著作権法について
1971年1月1日に施行された著作権法とは、著作物(音楽・映画・絵画など)の創作者に著作権や著作者人格権という権利を付与し、その利益を保護するための法律です。
著作権により、著作者は著作物の利用者から使用料を得ることができます。
一方で著作権が無かった場合、他人が無制限に著作物を利用してしまうおそれがあり、著作者は自らの知的財産である著作物から利益を得ることが困難となります。
また、著作物を生み出すためには費用や時間がかかるため、無断利用を許してしまうと著作者の創造意欲後退につながり、日本の文化的な発展に大きな影響が出ると考えられています。
著作物は著作権法第2条第1項第1号にて「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。
具体的には、小説・音楽・舞踊・絵画・漫画・建築・写真・映画・プログラムなどが該当します。そして、ゲームソフトも映画などと同様に扱われるため、著作物に含まれるのです。
ゲーム実況に関連する著作者の権利
ゲームの著作者は、ゲームを制作した会社や個人となります。
著作者に与えられる権利の中でも、とくに「上映権」と「公衆送信権」がゲーム実況・配信と関連しています。
上映権は、著作物を公に上映する権利のことで、公衆送信権はインターネット等により、著作物を公衆向けに配信する権利のことです。
ゲーム実況は、YouTubeなどのインターネット上に動画をアップロードし、公に向けてプレイ画面を配信しているため、原則として著作権者の許諾を得ないで行った場合には違法となります。
ただし、ゲーム実況によって作品の魅力が伝わり、販売促進につながるケースも多いことから、大手ゲームメーカーはガイドラインを定めた上で、配信を容認しています。
ゲーム実況・配信に関する各社のガイドライン

ゲーム実況・配信に関する各社のガイドラインをまとめました。
ゲーム実況の配信を行いたい場合には、対象となるゲームの制作会社・制作者が定めるガイドラインを必ず確認しましょう。
各社が定める投稿のルールを逸脱した場合には、ガイドライン違反によって逮捕されてしまう可能性があります。
大手ゲームメーカー
大手ゲームメーカーの任天堂は、ゲームやキャラクター、世界観が配信者によって広く共有されることを応援しており、原則として非営利目的であれば個人の配信者によるゲーム実況・配信を認めています。
ただ、任天堂が指定した収益プログラムに限り、YouTubeなどで広告収入を得ることも可能となっています。
また、PlayStation®などを手掛けるソニー・インタラクティブエンタテインメントは、PlayStation®のシェア機能などを使用した上で、オンラインサービスやウェブサイトへのアップロードを認めています。
その他、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストを手掛けるスクエアエニックスは、ゲームソフトごとにガイドラインを定めています。
各社のガイドラインは随時更新されるため、投稿前には必ず最新のガイドラインを確認しましょう。
スマホアプリ・オンラインゲーム
スマホアプリ・オンラインゲームのゲーム実況・配信可否は、ゲーム会社の方針によって異なり、配信を積極的に推奨しているゲームもあれば、配信を原則不可としているゲームもあります。
例えば、フォートナイト(Epic Games)やApex legends(エレクトロニック・アーツ)では、ガイドラインによってゲーム実況の配信や収益化が認められています。
また、スマホアプリやオンラインゲームによっては配信に関するガイドラインが明記されていない場合も多いですが、基本プレイ無料のゲームの場合は投稿動画が削除されるようなケースはないようです。
中島博之弁護士の見解

2023年3月には、著作権情報センターと文化庁が主催する「ゲーム実況・配信に係る著作権セミナー」が開催されました。
そのセミナーにて、東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士が講義を行い、現在の企業ガイドラインの傾向をまとめています。
中島博之弁護士によると、ゲーム内のムービーのみをそのまま投稿することや大部分がムービーシーンの投稿などは禁止と明記されることが多く、営利目的の利用は原則禁止されていることが多いとしています。
また、営利目的の利用が禁止されている場合でも、「YouTubeパートナープログラム」などのプラットフォームが正規に提供している広告を通じた収益化は例外として扱っている企業が多いものの、スパチャや投げ銭は禁止している場合があるとのことです。
その他、発売日前のコンテンツ公開は禁止であること、投稿方法は会社によって制限がさまざまであること、ゲーム中に流れるタイアップ曲のシーンは制作会社に著作権がなく、配信不可となっている場合もあることなどが講義にて紹介されました。
中島博之弁護士は講義の締めくくりとして、ゲーム実況・配信において重要なのは「法律やルールを守ること、そしてゲームへの愛」だと見解を述べました。
ゲーム実況・配信の市場規模と視聴者数

ゲーム実況・配信の世界の市場規模は約5,000億円とされており、巣ごもり需要が高まった2021年にはゲーム実況・配信の視聴時間が1日1億時間に達したともいわれています。
また、視聴者数は約8億人にのぼり、ゲーム実況・配信によって月に5,000万円以上を稼ぐ配信者も現れました。
YouTubeの中でも人気の高いジャンルで、日本国内における2022年の年間動画投稿数は約275万本となっています。
ここまで大規模な市場となった今、ゲーム実況・配信動画がゲームメーカーにとって大きくプラスとなることも多く、有名配信者がゲームメーカーとのタイアップ動画をアップロードすることもあります。
その一方で、ガイドラインから逸脱した動画のアップロードはゲームメーカーに大きな損失を与える可能性もあり、各社が定めるガイドラインを遵守することが求められています。
YouTube動画の切り抜きも違法の可能性

YouTubeにアップロードして違法となる可能性があるのはゲーム実況の配信だけでなく、アニメ・映画・ドラマなどの映像作品の切り抜き、そしてYouTuberのオリジナル動画の切り抜きも著作権法違反となる可能性があります。
Z世代から支持を集める切り抜き動画
切り抜き動画はタイムパフォーマンスを重視するZ世代から高い支持を集めており、YouTubeやTikTokで多くの切り抜き動画が出回っています。
しかし、映像作品やオリジナル動画の著作権者に無許可で切り抜き動画を投稿した場合には、著作権法違反となります。
また、著作権法には著作物に無断でアレンジを加え、別の著作物を創作することを禁止する「翻案権」も定められているため、映像作品をもとに再編した場合でも違法となる可能性があります。
無許可で切り抜き動画を投稿すると収益化の有無にかかわらず、刑事告訴や高額な損害賠償請求などを受けるおそれがあるため、公開前には必ず許可を取ることが大切です。
有名YouTuberが切り抜きを禁止する動き
YouTubeチャンネルの認知度拡大のために切り抜きや無断転載を勧めるYouTuberもいますが、2022年以降、有名YouTuberやVTuberが切り抜き動画を禁止する動きが広がっています。
にじさんじに所属するVTuberの星川サラさんは、2022年10月よりソロ配信の切り抜き動画投稿を禁止すると発表しました。
その理由として、悪意のある切り抜き動画や、事実とは異なるサムネによる誘導があり、個別に対応を進めていたものの改善しなかったためとしています。
また人気YouTuberのヒカルさんも2023年4月より自身に関連する切り抜き動画のYouTube投稿を禁止しました。
釣りタイトルやサムネにより、ヒカルさんに対して間違ったイメージを持たせる切り抜き動画が多く、自身の活動にマイナスであると判断したためだそうです。
このように、切り抜きを禁止しているYouTuberのオリジナル動画の切り抜き動画を投稿すると、削除の対象となるだけでなく、著作者が権利侵害を訴えた場合には多額の賠償金が請求されることもあるため注意が必要です。
ファスト映画の投稿による著作権法違反での逮捕事例

ファスト映画とは、映画の映像を無断で10分程度に短く編集し、ストーリーを解説する動画のことです。
ファスト映画も一部のゲーム実況・配信や切り抜き動画と同様に違法であり、2021年にはファスト映画をYouTubeに公開したとして、3名の動画投稿者が全国で初めて逮捕・起訴されました。
著作権法違反で起訴された被告の3人は、2020年に50作品以上のファスト映画を投稿し、少なくとも700万円の広告収益を得ていたとみられています。
また、ファスト映画は2020年春頃からYouTubeへの投稿が目立つようになり、総被害額は900億円以上にのぼるという推計があります。
2022年にもファスト映画を投稿した自称YouTuberの男性が逮捕されました。
5億円の損害賠償命令が下される
全国初の摘発から逮捕・起訴され、有罪判決が確定していたファスト映画投稿者に対し、東宝・東映・松竹などの大手映画会社を含む13社が損害賠償を求めた裁判にて、東京地方裁判所は原告の請求通り総額5億円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
裁判長は、映画作品のレンタル料を考えると「損害額は1再生あたり200円とするのが相当だ」という考え方を示しました。
作品ごとに再生数を掛け合わせると損害額は20億円以上にのぼると指摘した上で、5億円の損害賠償命令を下しています。
この判決は、著作権侵害に対する大きな抑止力につながると注目されました。
ゲーム実況を始める際に注意すべきこと

さまざまな動画が著作権法に違反するおそれがあることを紹介しました。
知らず知らずのうちに罪を犯さないためにも、ゲーム実況を始める際に注意すべきことをしっかりと把握して健全な配信活動を行いましょう。
まず、著作権法違反に該当しないため、ゲームメーカーが定めるガイドラインを必ず確認してください。
また、ゲーム・製作者・他の配信者・視聴者への誹謗中傷にも気をつけましょう。過度な場合には名誉毀損罪などに該当する可能性もあります。
その他、法律とは関係ありませんが、画質やボリューム、視聴者を飽きさせないプレイスタイルなども意識すると、より良いゲーム実況・配信を行うことができるでしょう。
悪質なゲーム実況者の摘発に関わった中島博之弁護士とは

悪質なゲーム実況配信者やファスト映画投稿者の逮捕について調査していると、中島博之弁護士という著作権法に詳しい弁護士が摘発に関わっていることが分かりました。
事件に関連するニュースにてインタビューを受けるなど、様々なメディアにも取り上げられている弁護士のようです。
過去には、集英社からの依頼で海賊版サイト「漫画BANK」の運営者の摘発にも貢献しており、NHKのクローズアップ現代で特集されていたようです。自身も漫画やゲームが好きであることから、悪質な著作権侵害は絶対に許さないとして、数々の著作権法に関する事案を解決してきました。
東京フレックス法律事務所の勤務弁護士として活動する一方、漫画原作者としても活動し、「弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい」を連載中です。
これまでの中島博之弁護士の活動からは、強い正義感と執念が感じられました。
悪質な動画投稿によってゲーム文化を衰退させないためにも、ガイドラインや著作権法はしっかりと守りましょう。
中島博之弁護士の多様な実績
中島博之弁護士は、漫画・ゲーム関連の著作権侵害事件やインターネット犯罪を数多く取り扱ってきました。その専門性の高さは、数々のメディア出演からも明らかです。
ここでは、中島博之弁護士の多様な実績を紹介します。
ファスト映画の投稿者の逮捕に貢献

中島博之弁護士は、ファスト映画の投稿者特定と逮捕に貢献した弁護士として、NHK「ニュース7」やテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめとする数々のメディアに出演し、事件の背景や法的論点を分かりやすく解説しています。
また、「ファスト映画事件に係る損害賠償請求訴訟に関する記者発表会」にも出席し、次のように主張しました。
映画は多くの人がお金と時間を掛けて作る総合芸術。〔中略〕権利者の意思にもとづいて権利物が利用されることが重要。創作の苦労をしてない人がタダ乗りして儲けていいものではない
熱い漫画愛が生み出した著書

中島博之弁護士は、幼少期からの漫画愛と、漫画制作に携わる人々の苦労への深い理解から、「漫画文化の崩壊」という危機感を誰よりも強く抱き、海賊版サイトとの戦いに身を投じました。
その中で、「自らが権利者として直接戦う道はないか」と考え、漫画原作者としてデビューすることを決意。
コミックアプリ「マンガワン」にて「弁護士亜蘭陸法は漫画家になりたい」を連載し、大きな注目を集めました。
さらに、2023年には、著書「あ、そのマンガ、違法かも。」も執筆しています。
漫画BANKの運営者摘発に貢献

海賊版サイト「漫画BANK」の運営者摘発に大きく貢献したGメンの中心メンバーとして、2022年にはNHK「クローズアップ現代」にも出演しています。
中島博之弁護士は、日本国内向けの海賊版サイトが海外で初めて摘発されたことを画期的な成果と評価しつつ、民事訴訟を含む追加対応や、広告出稿企業に対する情報開示命令の取得など、残された課題の解明にも積極的に取り組む姿勢を示しました。
大手出版社の顧問弁護団の一員として活動

中島博之弁護士は、2018年に「漫画村」の運営者情報を、アメリカのサーバー提供会社から特定する上で重要な役割を果たしました。
また、漫画村閉鎖後も、集英社、KADOKAWA、講談社、小学館の顧問弁護団の一員として、海賊版サイトにサーバー提供を行う米クラウドフレア社に対し、同サーバーを介した公衆送信の停止などを求めました。
しかし、同社が必要な措置を講じなかったため、海賊版コンテンツの公衆送信・複製の差し止めと損害賠償を求めて提訴。中島博之弁護士は、この裁判にも深く関与しています。
また、中島博之弁護士は、集英社の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のファンであり、テレビ出演時にジョジョのネクタイを着用するなど、その情熱が垣間見えました。